花の肖像

睡蓮

Water Lily

1989 Tokyo Japan / 1940×1620; Oil on Canvas
Gathered in the Sukhotkai Thailand / Collection by Puranta Koube

B・C五世紀、菩提樹の下で釈迦が悟りを開いたという。そして500年余りの間に仏教がインド一帯に広まった―。

世界宗教として西城から中国、アジア全土に伝えられ様々な形に変化してゆく。 東方には、インド→ガンダーラー→西城→中国→日本へと大乗仏教がつたわり、また南方には、 インドからセイロン→ビルマ→シャムへと流れ小乗仏教となった。 このふたつの流れが解け合う地タイに、スコータイ王朝が築かれたのは十三世紀。 スコータイとはタイ語で「自由の夜明け」を意味する。仏教が今もごく自然に人々の心に宿る国である―。

蓮や睡蓮は仏教徒、ヒンドウー教徒のいずれにとっても神々の世界の中心的存在として、信仰の対象とされている。 サンスクリットの詩人たちにとっては美の象徴であり、人体の各部分の美しさは頻繁に蓮にたとえられている。 しかし蓮の花を見比べると、アジア一帯、インド、中国、日本、タイなど、国によって宗教色も違えば、 花のはなつ光りがこんなにも違うことに驚かされる。

始めてタイのスコ−タイ王朝をおとずれたのは約三十数年も前のことになるが、穏やかな空気が流れ、この睡蓮がそこらじゅうに咲き誇っていた。 その美しさに心を奪われた。私の花の絵画の原点ともなる花である。

2011年、タイ全土を覆いつくす、とてつもない大洪水に驚き心が痛むばかりである。

Tadamasa Yokoyama