花の肖像

鶏頭

Cockscomb

1991 Tokyo Japan / Oil on Canvas 1170×910
Gathered in the Golden Triangle / Property of artist

鶏頭の原産地はインド熱帯地方である。ヒンズー教の聖地バラナシに咲いていた鶏頭は私の魂を揺さぶった―。 生死、善悪、聖俗、時間、次元といったこれまでの価値観など根本から危い・・・・と。 私はバラナシの中心に聳え立つゴールデンテンプルの下に寝た。夜明けに耳を劈くように朝の祈りが流れる。 そして、すべて母なるガンガーの流れに飲み込まれて浄化されてしまうのであった。

ボードレールは鶏頭の花を見てこう書き記している。

太陽は自分の流す血の中に溺れてしまった

見る見るうちに血は凝って太陽の血は大地に

滴り落ちガンガーを血に染め、また朝の祈りが始まる。

バラナシの景観に重なる。・・・・

鶏頭―学名【Celosia】セロシアはギリシャ語で燃えるという意味に由来する。 この花は古くから日本に渡来しており、観賞用として広く庭園などで栽培されてきた。 夏の終わりから黄、鮮紅、狐赤、橙、紫紅色などの色を呈し、大変美しい。 どこか淋しさを感じさせる一面があり、日本では仏の花として捧げられる。

田中一村の絵にも、彼が絵を描き続けた日本の熱帯地方、奄美独特の鶏頭の強さと淋しさが感じられる作品がある。 この花は俵屋宗達によって日本絵画《草花図襖》に鮮やかに描かれ、やまと絵から琳派が生まれ、宗達、光琳、そして抱一へと受け継がれる。

鶏頭は朽ち果てるまで濃密さを失わない。 マリー・アントワネットについて記したコクトーの手記も、私には鶏頭の果てる姿の印象を与え興味深いものである。

Tadamasa Yokoyama